薬大国日本 見直す時期にきている

抗生物質の無秩序な大量使用による影響

私はかねてから、日本の抗生物質や薬品の使用状況について疑問を呈してきました。日本の抗菌剤使用量は世界の1/4に達し、耐性菌出現率は世界でも突出して高い状況にあると言われています。一説ではヨーロッパの肺球菌に対する耐性菌の出現率が10%程度であるのに対して、日本では80%近い割合で耐性菌が出現していると言われています。  

大腸菌などの微生物は30分程度の短期間で一世代を終了します。耐性菌を作り出すのには、半分程度の菌が死ぬ濃度の薬剤と菌を接触させることによって、生き残った菌が薬剤に対する耐性を得とくしていきます。 この際、微生物は接触した種類の薬剤のみでなく、他の薬剤に対しても抵抗性を持つことが知られています。これを交差抵抗性と言います。細菌は薬剤に対する耐性を持つ際に、細胞壁を厚くしたり抵抗性のある遺伝子を収得するなどして耐性を高めますが、この耐性が使用された薬剤以外にも抵抗性を持つ現象を交差抵抗性といいます。  

現状のように至る所で抗菌材が使用され、殺菌剤、消臭剤、抗生物質が日常的に使用されている現状において、微生物は様々な化学物質に対して耐性を会得してきています。
  

一方、薬剤の開発には10年以上の年月と数十億円とも言われる開発費が必要となり、簡単に新たな抗生物質を作り出すことはできません。日本国内ではメシチリンに耐性を持ったMRSAによって年間2万人程度の死者がでているとの推計があります。交通事故による死亡者が5千人を切っているなか、MRSAによる死亡者がいかに多いかが分かります。

そして、現在抗生物質の中で最も効力があるとされているバンコマイシンについても耐性を示す菌の出現が問題となっています。現状ではバンコマイシン以上の抗生物質は無く、この菌に感染した場合有効な治療方法が無いのが現状です。そして、このバンコマイシン耐性菌は家畜の飼料に添加されているアボパルシンというバンコマイシンに似た性質を持つ抗生物質が使用され続けてきたことが原因であるとされています。  

抗生物質の無秩序な大量使用がこのような結果を招いたのです。抗生物質をはじめとした薬剤の大量使用によって、このほかにも人体には様々な影響が生じています。近年、腸の持つ免疫力に注目が集まり、ヨーグルトなどを利用して腸内細菌を活性化し体を元気にするという考え方が定着しつつあります。  

しかし、一方で菌を殺してしまう抗生物質や抗菌剤が大量に使用されているという矛盾があります。せっかく腸にいい細菌を飲んでも、これらの薬を使用することによって腸内細菌が死んでしまい、体にとって良くない働きをする微生物が腸に定着してしまう可能性があります。
  

薬を飲み続けることによる悪循環

薬カスケードという言葉があります。例えば風邪をひいて病院にいくと、発熱を抑える薬などが処方されますが、風邪薬を飲むと胃腸が荒れてしまう可能性があるので胃腸薬を同時に処方されることがあります。更に、薬を飲むことによって肝臓の働きが弱り、体がだるくなるため別の薬が処方されるというように、薬の処方が数珠つなぎに繋がっていくことを指す言葉です。



日本の高齢者には1日に8種類以上の薬を飲む人が多く存在しています。薬は人間にとって毒でもあります。ある種類の薬を飲むと効果もありますが、体に対して害となることも多く、この働きが副作用として顕著に現れる場合もあります。しかし、目に見えにくい形で緩やかに私たちの体を蝕ばんでいる可能性もあります。 体に入った薬等の異物は、基本的に肝臓によって浄化されます。多くの薬を飲むということはそれだけ肝臓に負荷がかかっているということです。  

薬を飲み続けることによって、免疫機能である腸内細菌を殺し、肝臓、腎臓といった主要な臓器の働きを弱め、更に薬を服用してしまうという悪循環が生じています。そして、このように大量に消費される薬や医療費は国家の財政をも大きく圧迫し、人間の体だけでなく国家をも衰退させる原因となりかねません。  

日本の医療費や年金などの社会保障費は既に国家予算の半分近くを占め、今後も拡大の一途をたどることが予測されています。近い将来、国の税収と社会保障費が同額若しくはそれ以上となることも予測され、日本では社会保障以外の事業については全て国債などの借金によってまかなう必要が生じてくる可能性もあります。  

現在の薬の異常使用は、一部のメーカーやその関係者を潤しているだけで、薬を使用している人にとっても、国の財政にとっても大きな負担となっています。更に、薬をはじめとした薬剤の大量使用がアレルギーの増加や発達障害など、子供たちの体質や精神面にも様々な影響を及ぼしている可能性があります。

薬をはじめとする化学物資なしには、現在の社会発展はありませんでした。しかし、これらの使用方法について見直さなければならない時期になっています。燃料革命や高度経済成長期に様々な公害問題が発生し、それらの問題を克服してきたように、今薬剤をはじめとした化学物質の使用についても見直す時期にきているのではないかと思います。    

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