浜松市北区引佐町の不思議な生き物 その1

珍しい植物

私が住んでいる静岡県浜松市引佐町は静岡県の北西部に位置する山あいの町です。新東名高速道路の浜松いなさインターを下りて車で5分ほどの位置にあります。見た目には山あいののどかな集落ですが、この地域は他には無い不思議な自然がいっぱいです。

引佐町北部の渋川地区~黒田地区にかけては、蛇紋岩地という特殊な岩盤地が存在します。岩の表面に蛇のような模様が現れることからこの名があり、超塩基性のやせ地で植物の生育にはあまり向いていない環境です。しかし、この蛇紋岩が実は珍しい生き物の宝庫となっています。植物の生育に向いていないことが、変わった生き物の生育を助けているのです。

植物はいつも競争しています。植物の生育に適した環境では、生長が早く競争に強い植物が地面に密生してしまい、競争に弱い変わり者の生き物たちは競争に負けて生育することができません。

でも、蛇紋岩地はやせ地であるため、植物がまばらにしか生えることができず、変わりものの生き物たちの生える隙間が生まれ、変わりものの生き物たちはこのような隙間を利用して生育しています。

引佐町の北部には渋川という集落があり、この集落の名前が付いた植物が3種類あります。シブカワシロギク、シブカワニンジン、シブカワツツジという植物です。小さな集落の名前が付いた植物が3種類もあるということは非常に珍しいことです。

これらの植物は、渋川地区を中心に四方浄地区などの非常に狭い地域にのみ生育している珍しい植物です。


シブカワシロギク
シブカワシロギク:
見た目には地味な植物です。秋になると白く小さな花をつけます。地味な植物のため誰にも気づかれないうちに絶滅の危機に瀕しています。
シブカワツツジ
シブカワツツジ
3種類の植物の中で唯一地元でも良く知られた植物で、花の時期にはツツジ祭りが開催されます。

シブカワニンジン
シブカワニンジン:ニンジンの名が付けられていますが、ニンジンの仲間では無く、ツル性の植物で8月頃に筒状の白い花を付けます。

シブカワツツジは地元の人にも広く知られ、花の咲く頃にはツツジ祭りが盛大に開催されます。しかし、シブカワシロギクシブカワニンジンは地元の人にもほとんど知られていません。

特に、シブカワシロギクは環境省のレッドデータブックで絶滅危惧ⅠA類に指定されている植物で、最も絶滅の危険が高いランクに位置付けされています。全国でもこの地域にしか生育せず、地元の名前が付けられたこの植物が、地元の人たちにもほとんど知られていない状態で絶滅の危機に瀕しているのは非常に残念なことです。

蛇紋岩地には、このほかにも絶滅の危機に瀕している珍しい植物がたくさんあります。蛇紋岩地に多く見られるカンアオイはギフチョウの餌となる植物で、渋川の枯山と呼ばれる地域には多くのカンアオイが生育しており、春になると春の女神と呼ばれるギフチョウの舞をみることができます。

このほか、エビネを中心としたランの仲間のほか、カザグルマという白く大きな花を咲かせるつる性の植物を見ることができます。大きな花の形がカザグルマに似ていることからこの名があり、園芸種のクレマチスの原種となった植物です。


カザグルマ:
5月の終わり頃に白く大きな花を付けます。つる性の植物で一面に花を付けた姿は見事としかいいようがありません。


エビネ:
言わずと知れた代表的なランですが、蛇紋岩では比較的多く生育しており5月頃に美しい花を咲かせます。
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珍しい生き物


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