自分の身をまもり生き抜くための本能
私は仕事で自然環境を調べる仕事をしています。環境アセスメントに関連した自然環境調査、森林の状況や希少生物の生息状況などを調べる仕事です。このため、年中山の中にこもって動物や植物の観察をしています。毎日のように山の中にいると、なんとなくですが人間が本来もっていた本能のような感覚がよみがえってくるような気がします。ここにはこんな生き物がいそうだとか、このあたりはなにか危ないような気がするということを感じることがあります。もしかしたらこれは本能では無く経験的なものかもしれませんが、人間や動物などには自分の身をまもり生き抜くための本能が必ず備わっているのではないかと思っています。
私は最近薬草に興味を持っています。薬草に関する本を読んでいると、植物の根の部分はお腹のこのような症状に良いとか、葉や実はこうして使うといいなど、細かく効能が記されています。そして驚くべきことですが、これらの効能の多くは科学の発展した現在、科学的に証明され現在私たちが使用している多くの医薬品に応用されているということです。
今のように化学的な分析や知識も無く、臨床データなどもない時代にどのようにしてこのようなことを知ることができたのでしょうか。もちろん経験的に積み上げていったものもあるとは思いますが、私個人としては経験値だけでは何千種類もある植物の中からこのように詳細な解明を行うのは困難だったのではないかと考えています。
一部のサルはお腹の調子が悪い時に特定の草を食べることが知られています。また、身近なところではイヌが草を食べるのを見たことがある方も多いと思いますが、イヌは決して肉ばかり食べていたから健康のために青い草を食べなくてはと思って食べている訳では無く、もともと小動物などを襲って食べることが多かったイヌは消化できない小動物の毛などを吐き出すために草を食べていると言われています。
このような行動はほかの多くの動物にも見られます。例えば一部の動物は岩塩を舐めて塩分を補給したり、ササを食べる割合の高いシカは木の樹皮を食べて多孔質な樹皮の空間で特定の腸内細菌を増殖させてササの消化を助けているのではないかと言われています。
更に、オオタカやクマタカといったタカの仲間は、巣の上にモミ、マツ、スギなどの青葉を敷くことが知られています。生の肉を餌とするタカの仲間は巣に直接これらの獲物を持ち込むため、そのままにしておくと獲物に付着していた細菌が増殖して巣の中はあっというまに汚染され、巣から出ることのできない雛たちもこれらの細菌によって病気になってしまいます。タカは本能的に巣に殺菌力の強い青葉を敷くことによって、雛を守っているのです。巣立つとすぐに親と離れてしまうタカの仲間が代々このような行動をとり続けるのは本能以外のなにものでもないと思っています。
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